私が長年勤めた会社を辞めた理由

 入社した頃は、就業時間内に仕事が終わらなければ、家へ持ち帰って片づけた。会社の資料や技術文献などもよく持ち帰り、翌日会社へ戻した。先輩社員から「その情熱をこれからもずっと、持ち続けろよ」と励まされたこともあった。

 結婚後も、子供が生まれてからも、このスタイルを続けた。子供と遊んでやれないことが多かった。でも家で仕事や勉強をやりながら「お父さんは、こんな難しい仕事をやっているんだぞ」と言いながら、その後ろ姿を見せ続けた。これは父親の威厳でもあり、子供への教育としても良かった。

 時代は流れ、「セキュリティ問題」「個人情報流出事件」などが社会問題になった。

 すると会社では、言うことが変わってきた。「会社から資料を持ち出してはダメ」「個人のパソコンで作成したデータを会社のパソコンに入れるのもダメ」「フロッピーやUSBでデータを持ち出すのも、けしからん」「会社のノートパソコンを持ち出すなんて、もってのほか!」 などなど。

 こうなると、長年自分がやってきた仕事のスタイルが通用しない。「仕事は会社でやるのが当たり前」って言われたが、そりゃそうなんだけど、明らかに自分の仕事の質が落ちる。だいたいそんなに手際よく片付く仕事は、めったに来ない。非常にやりにくくなった。